壺中の独言―変 調―秦 政博第十三回
某日午後、南西方向が一天掻き曇って日暮れ時のような空模様になった。程なくバケツをひっくり返したようなゲリラ豪雨の襲来。狭い庭が一面まるで池のように様変わり、熱帯のスコールそのものである。加えて、「風神雷神図」から飛び出たように閃光、雷鳴、落雷と来たからたまらない。この世で雷ほど怖いものはいない佐武は、洗面所の片隅で震えている。一騒動の後、なんとエアコン2台が作動不能。雷様から臍を取られるなんていう脅し文句は昔の子供たちへの警句だが、臍の代わりにエアコン買い替えに大金を取られてしまい、とんだ置き土産に心中「沸騰化」。
ハヤリ言葉になったように連日、熱中症への警戒が報じられ、飲みたくもない水をしきりに勧めてくれる。いくら水を飲んでも高齢者の萎びた体は萎びたまま。齢を取るにつれ心身のあちらこちらに変調をきたすのは仕方がない。シワは寄る、足はひょろつく、目はかすむ…年々そうした仲間が増えている高齢化の時代だから、ここぞとばかりに手を変え品を変え、様々な売りものを強いてくるのにも辟易する。今日の紙面を見ても、「シャンプーなのに白髪がそまる」「ED治療薬」「飲む目薬」「痛みはじめが飲みはじめ」「今の補聴器では満足できない方へ」「薄い筋肉のようなひざサポート力」等など…といった商品案内が嫌でも目に付く。テレビ画面でも何分かおきの宣伝画面。これくらい繰り返せばたとえ認知症の老人だって、記憶の片隅に残るだろうと言わんばかりだ。送料無料とウタっているものもあるが、情報提供代(誰も提供してとは言ってないが)、つまり宣伝費を含めて価格に紛れ込ませているから購入者持ちである。
年々変調到来の心身ではあるが、それら宣伝商品がどの程度の効能があるのか興味はないし、知ろうとも思わない。健康のバロメーターは快食・快眠・快便。そのために、貧しいながらも一膳三品に少々の酒、毎朝実行のラジオ体操に優るものはなし。無為徒食でなく悠々自適。萎びてやがて枯れ行くのは生物の運命だが、飲みたくもない水を呑まなくてもまだ枯れる程の変調はない。諸君は如何かな? |