壺中の独言

山の動く日

秦 政博

第五回


 

「山の動く日来(きた)る。かくいへども人われを信ぜず。山は姑(しばら)くねむりしのみ。…」-明治441911)年『青鞜』発刊号1ページ目、与謝野晶子「そぞろごと」の冒頭の文言である。そして、今を去る30余年前、故土井たか子日本社会党委員長は、参院選での議席倍増にこの文言を援用して「山は動いた」と勝利宣言をした。誇らしさに満ちた新鮮な響きのある言葉だったと鮮明に記憶している。

先日、11月末日の東京地裁での判決のことである。同性婚に対して現行の法制度は法律が無く「 違憲状態」にあるとした。人生の最も重要な事柄の一つである婚姻について、同性愛者が望み通り家族を形成できないのは「人格的生存」にたいする重大な脅威、障害になるから、立法措置を講じるべきというのである。判決には、近年の同性婚への理解が段々に進んでいる社会的情勢も加味されているに違いないが、性差別に関り一歩抜きん出た判断が示されたといえよう。ちなみに、米国最高裁では平成272015)年に同性婚の合憲判断が出ているし、今週は上院で同性婚法案が可決されたというニュースも飛び込んできたから、日本も米国も今時、まさに性差別をめぐって「山が動いている」という状況下にあるといえよう。

 身近な様子のことである。11月初めに開いた豊友会支部女性代表者会で、NPO法人Teto Company理事長の奥 結香氏に、「性の多様性について知ろうーLGBTって何―」という演題でお話をいただいた。Lはレスビアン(女性同性愛者)、Gはゲイ(男性同性愛者)、Bはバイセクシャル(両性愛者)、Tはトランスジェンダー(性と心の不一致)を指す。奥氏の体験を通したこの講演を聞き、性差別を受けて翻弄され苦悩している、セクシャル・マイノリティーの人たちへの理解と共感が得られたという会員の声に応えるべく、この思いが木霊のように広がって行くことを期待したいものである。       

以上とは対照的に、東京地裁判決と同じ11月末日の参院予算委員会での杉田総務政務官の答弁は、大いに気がかりな出来事である。杉田議員は過去の「日本に女性差別というものは存在しない」という発言の真意を問われ、「命に関わるひどい女性差別は存在しないという趣旨だ」と応じたこと。すかさず野党議員から「命に関わるDVだってある」との痛烈な批判があった。議員であれば政策課題として当然に大きな関心を持つべき差別問題だが、命に関わることを含め「女性差別は存在しない」などというな不見識な神経には、あきれはてて失望以外に言葉がない。そう思っていた矢先の3日後の委員会では、「LGBTは生産性がない」と表現した過去の発言(暴言ともいえよう)も併せて謝罪。指摘を受けた他の差別表現も撤回、精査に追い込まれたが、強い非難に値する。

ここ数日、このような事案が生起してはいるが、12月3日には都内で女性の権利拡大、ジェンダー平等を目指して国際女性会議(WAW!)が開催された。まさに「山の動く日来(きた)る」、「すべて眠りし女(おなご)今ぞ目覚めて動く」時の到来である。ジェンダーギャップの解消に向かって、共に力強く歩みを進めようではないか。「その昔において、山は皆火に燃えて動きしものを」であったことを想起しょう。